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環境研究総合推進費S-11・Beyond MDGs Japan一般公開シンポジウム 「2030年持続可能な発展目標:日本と世界の変革へ向けて」 開催報告

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2016年1月15日(金)、国連大学ウ・タント国際会議場にて、「環境研究総合推進費S-11・Beyond MDGs Japan一般公開シンポジウム 2030持続可能な発展目標:日本と世界の変革へ向けて」を開催しました。(環境省環境研究総合推進費戦略課題 S-11「持続可能な開発目標とガバナンスに関する総合的研究―地球の限られた資源と環境容量に基づくポスト2015年開発・成長目標の制定と実現へ向けて―」(2013 ~2015年度)(POST2015プロジェクト)の国民との科学・技術対話シンポジウムとして実施)当日の参加者は約300名にのぼり、持続可能な開発目標(SDGs)への関心の高まりが感じられるものとなりました。

本シンポジウムでは、2015年9月に国連で採択されたSDGsを含む「我々の世界を変革する:持続可能な発展のための2030アジェンダ」の実現に向けて、どのような変革が必要かについて議論すると同時に、POST2015プロジェクトの3年間の総括として研究成果の報告を行いました。また、SDGsを先進国で実施する際に、研究者および行政・企業、NGO等がそれぞれどのような役割を果たすかについて検討することにより、今後の日本におけるSDGsの実施体制についても議論が展開しました。

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冒頭、慶応義塾の真壁利明理事および国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)/SDSN Japan事務局長の竹本和彦所長による主催者挨拶に続き、環境省地球環境審議官の小林正明氏および外務省地球規模課題審議官・大使の尾池厚之氏よりご挨拶を賜りました。

小林審議官より、2015年は2030年アジェンダに関する合意、そして気候変動に関する合意という地球規模課題についての2つの大きな合意が形成され、2016年は世界のすべての国がそれぞれの立場から改めて対応を行う実施に向けた大きな年になると説明されました。2030アジェンダには3つの切り口があり、第1にSDGsは持続可能な発展に必要な3つの側面を統合していること、第2にグローバルパートナーシップをはじめとして、民間企業とNGOの前向きな対応を目指していること、第3にこれから15年の究極的な目標とその方向性を示していることが指摘されました。

尾池大使より、2015年は、3月の仙台防災会議、7月の開発資源会議、9月の国連総会におけるSDGsの採択、12月の気候変動会議など、国連における開発という意味において革命的な一年であったと言及されました。今後の課題として、どのように日本の国内体制を作っていくことができるか、日本の得意な分野や苦手な分野はどれか、どのようにステークホルダー間で対話を図っていくことができるか、どのように民間資金と公的資金を引き出していくことができるかという点をあげられました。SDGsは、これから15年をかけて達成していくものであり、議論や情勢も今後進展していくこと、またこのシンポジウムが実施について議論する最初の機会となることを期待しているとのメッセージをいただきました。

基調報告
「SDGsとは何か?S-11研究の到達点とこれから」

慶應義塾大学教授/UNU-IASシニアリサーチフェロー/S-11プロジェクトリーダー 蟹江 憲史

慶應義塾大学大学院教授/UNU-IASシニアリサーチフェロー/S-11プロジェクトリーダーの蟹江憲史先生より、「SDGsとは何か?S-11研究の到達点とこれから」と題して基調報告を行いました。はじめに、SDGsを含む2030年アジェンダの採択に至るプロセス、また包摂性、普遍性、統合性といったSDGsの特性や、地球システムを健全に運営できる範囲(プラネタリー・バウンダリー)において人類が発展するためのSDGsの可能性について述べました。そして、実施面では今後の進捗のレビューに関する課題があること、また研究面ではSDGsにみられるインターリンケージの概念化や、目標を通したガバナンスの仕組みの検討などの課題があることを指摘しました。また、過去3年に渡るPOST2015プロジェクトの研究成果について、資源・環境制約下において持続可能な発展を実現するための指標・目標のあり方、SDGs実施のためのガバナンスの視点、SDGs達成に向けた国際・国内レベルにおける配分(格差)の問題を紹介しました。最後にSDGsを促進していくための今後の日本の課題として、既存の枠組では対応できない分野横断的な問題の解決に向けて「司令塔」を設置すること、また日本のベストプラクティスを国際的に推進することなどをあげました。また、SDGsの実施において国際標準になるためには、日本でどのような対策や議論が必要かについてまとめた「SDGs達成に向けた処方箋」の概要を報告しました。

基調講演

参議院議員 武見 敬三

参議院議員の武見敬三先生より、「Japan’s Challenge on SDGs and Global health- Human Security approach」と題して人間の安全保障やSDGsにおける健康目標設定の特徴に関する基調講演を賜りました。武見先生は、健康目標のとらえ方が“Live Longer”から“Live Better”、また寿命から健康寿命という概念に変化・拡大している点、また健康が人間の安全保障の中核を成している点を指摘したうえで、MDGsとの相違点として、SDGsでは単に保健政策の中での疾患別の垂直的なアプローチにとどまらず、保健システム強化アプローチに基づく目標が設定され、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)という考え方が根底にあることが重要であると述べました。エボラ出血熱の流行の例では、保健・医療政策だけでは流行を阻止するには限界があるため(例えば、葬式等遺体の扱いに関する慣習から感染拡大)、コミュニティ・レベルにおける包括的な取組の必要性が認識されるようになることを指摘しました。SDGsというマクロレベルの議論においても、エボラ出血熱の流行を阻止するためのミクロレベルの議論においても、人間の安全保障という言葉は使われていないが、いずれもその考え方に近づいてきたといってよいと強調しました。そして、今後、保健分野で比較優位を持つ日本は、健康的な世界とより平和的な社会の構築を目指すうえで世界に貢献することができると述べました。

パネル討論1
何がわかったのか? 何が変わるのか?

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座長:蟹江 憲史

パネリスト:
•東京大学准教授 北村 友人

•九州大学教授 馬奈木 俊介

•地球環境戦略研究機関所長 森 秀行

•CSOネットワーク事務局長・理事 黒田 かをり
•地球環境戦略研究機関研究顧問/低炭素社会国際研究ネットワーク・低炭素アジア研究ネットワーク事務局長 西岡 秀三
•ニュースクール大学教授 福田 パー 咲子

座長の蟹江先生より、パネル討論1のテーマや論点について説明がなされた後、S-11の研究成果について、九州大学大学院教授・馬奈木俊介先生、東京大学大学院准教授・北村友人先生、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)・森秀行所長より発表がありました。

馬奈木先生からは、S-11のテーマ2において、SDGsのターゲットについて各国がどの程度費用負担する必要があるか計算してきたこと、またSDGsの各ターゲットを測ると同時に、SDGsを総合的かつ定量的に地域の豊かさを示す「新国富」(¥単位)で評価できるよう指標を開発しているとの説明がありました。すでに環境や教育を新国富で測定しており、今後は健康を含めて評価を行うこと、またこの指標を利用することにより、自治体において健康、都市計画、環境部門の担当者が同じ軸で評価できること、また企業が都市インフラの整備を提案する際に社会的貢献に寄与できる程度を把握できる可能性があると強調しました。

北村先生は、S-11のテーマ3において、開発の観点からMDGsを評価するとともに、SDGsの目標と指標を提示し、持続可能な社会の実現に向けて、世界が直面する多様な課題に対応するための「リテラシーズ(literacies)」の重要性を指摘しました。研究成果として、例えばSDGsの様々な分野について検討するなかで、「二重の障壁(ダブル・バーデン)」という問題があり、先進国では高齢化が問題となる一方、途上国では人口増加の問題がいまだに大きいこと、また健康の分野では飢餓の問題がいまだに存在すると同時に、肥満の問題も大きくなっていることをあげました。こうした「二重の障壁」を考えるためにも、公正な配分や人々が適切なリテラシーを身につけることが不可欠であり、またこのような問題を変えていくための、ローカルレベルとグローバルレベルをつなぐガバナンスのあり方について言及しました。

森所長は、S-11のテーマ4において、SDGs実施のためのマルチレベルガバナンスを検討するため、MDGsやアジェンダ21の実施のための国別持続可能な発展戦略(NSDS)の実施状況を分析した結果、政府の効率性とMDGsの達成度に相関性があり、政府の効率性向上が実施につながること、4つの要素(リーダーシップとビジョン、組織間調整、ステークホルダーの参加、進捗レビュー)が特に重要であること、普遍的な目標も各主体や地域のニーズやプライオリティを考慮して整理し、各自の目標に落とし込む必要があることを指摘しました。また、民間によるファイナンスの実務的な問題点を抽出するとともに、国際的な公的ファイナンスについて既存の革新的メカニズムの効果を検証し、SDGs実施のための効果的な資金メカニズムを検討したことを報告しました。

続いてS-11のアドバイザーであるIGES研究顧問/低炭素社会国際研究ネットワーク・低炭素アジア研究ネットワーク事務局長の西岡秀三氏、CSOネットワーク事務局長・理事の黒田かをり氏、ニュースクール大学教授のサキコ・フクダ・パー氏より、コメントをいただきました。

西岡氏は、2015年はSDGsや気候変動のパリ合意が採択され大転換となったにもかかわらず、日本ではそのような認識がないこと、また、認識の変化は簡単ではないものの、SDGsと気候変動においては協力してその認識や行動を促進していく必要があることを指摘しました。そして、長かった交渉の時代は終わったこと、これからは行動の時代であることを強調し、政府、地方自治体、企業、財団、研究が活動していくことの重要性を指摘しました。

黒田氏は、「SDGs達成に向けた日本への処方箋」に対し、各項目の妥当性について消費者や各団体と議論していく必要があること(例えば、食料についてエコファーマーを増加させることを言及しているが、現状では収益が少ないため、近年エコファーマーの数は減少しつつあること)、またこの処方箋は今後の議論のたたき台として有用であることを強調しました。また、議論の過程において多様なステークホルダーが参加する重要性、そして市民社会と研究者との関わりの場の必要性を指摘しました。

フクダ・パー氏は、SDGsとMDGsを比較し、SDGsは国連事務総長を中心としたトップダウンのアプローチではなく、コロンビアとブラジルが主導した政府主導のアプローチで作成されたこと、MDGsでは各国の特異な状況にもかかわらず優先順位が与えられていること、SDGsでは実施手法を含んでいることなどをあげました。また、SDGsは幅広いアジェンダを扱っているものの、実施という観点から問題点(例えば、ターゲットの選択性やガバナンスのギャップなど)も存在すると指摘しました。

その後のパネルディスカッションでは、「経済成長戦略としてのSDGs」という点について議論が展開されました。SDGsが経済成長戦略となり得るのは途上国のみであること、SDGsは経済のあり方や質を扱っており、質が変わることによりプロダクトも変わるため、そこでビジネスの可能性がでてくること、持続可能な経済モデルの生産パターンについてSDGsの目標8(包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用を促進する)が大きな出発点になること等の意見があげられました。

その他、以下の点についても重要な事項として議論を展開しました。
 → SDGsを促進するため、S-11や研究者が今後どのように日本社会に貢献していくことができるか
→ コミュニティがどのように参加していくか
→ 公共の安全をどのように構築していくか

パネル討論2
SDGs実施へ向けて日本はどうすればよいだろうか?

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座長:竹本和彦

パネリスト:
•モナッシュ大学教授/ウォーリック大学教授 ディビッド・グリッグス

•環境省地球環境局国際連携課長 瀬川 恵子
•博報堂広報室CSRグループ推進担当部長 川廷 昌弘

•動く→動かす(GCAP Japan)事務局長 稲場 雅紀

•国立環境研究所資源循環・廃棄物研究センター循環型社会システム研究室室長 田崎 智宏

パネル討論2では、今後国連で合意された国際目標をどのように国内で実施していくべきか、また各アクターがどのような役割を担うかという点について議論が行われました。

モナッシュ大学教授/ウォーリック大学教授のデイビッド・グリッグス氏からは、オーストラリアでのSDGsの策定に向けて、どのような目標やターゲットがオーストラリアに適切であるかを特定すること、ターゲット間のインターリンケージを考察すること、SDGsを促進するために多様なステークホルダーと活動すること、SDGsについてのオーストラリア政府の立場に影響を与えることを目的として、3シリーズでワークショップを開催したことについて説明がありました。また、国連で設定されたどのターゲットが最も国家に関連するものか、SDGsの進捗状況をどのように測るか、さらに10ゴール54ターゲットを含む国内目標について言及されました。

環境省地球環境局国際連携課長の瀬川恵子氏は、SDGsには国を対象としたものや、マルチステークホルダーを対象としたものがあるが、行政の役割として前者については自らの施策の実施状況の点検およびステークホルダーの実施の促進を指摘しました。また、SDGsの実施にあたっては、多様なステークホルダーの参画が必要であるものの、どのような取組が評価されるかわかりにくいという声もあるため、ステークホルダーズ・ミーティング(仮称)を設置することを報告されました。このような先行事例の実施経緯や動機を発表する場を設けることにより、先行者の活動が規範として認識され、さらに後続者が規範内容と自身の強みを踏まえて、SDGsの実施を検討できると指摘しました。また、G7環境大臣会合におけるSDGsの国際的な展開についても紹介されました。

博報堂広報室CSRグループ推進担当部長の川廷昌弘氏は、企業の立場から、SDGsはコストから投資まで含む企業の取組のインデックスとなり、SDGsの社会実装は企業がCSRを捉え直す機会であると述べました。SDGsを推進していくためには、社会実装に向けた「ガバナンス」、民間自身の活動を評価する「インディケーター」、セクターを越えた「パートナーシップ」(NGOとともに事業を実施)、企業の取組を評価につなげるための一般へのSDGsの普及や戦略的なロビーイングといった「コミュニケーション」、社会課題の解決に向けたセクター間の連携で創出する「オポチュニティ」というキーワードがあることを指摘しました。また、SDGsで望まれるCSRとは、社会課題は価値と投資の対象であると理解することではないかと問題提起しました。

動く→動かす(GCAP Japan)事務局長の稲場雅紀氏は、世界を変革するためには強い危機感をもった市民社会が必要であり、市民社会セクターは地球益を守る存在であると説明しました。また、NGOは日本では実施面で住民の細かなニーズをとらえて行政にできないサービスを提供するという役割が期待されている一方で、海外では評価や問題提起、そして政策アドボカシーを行い、多様なセクターの触媒となる存在であると指摘しました。さらに、市民社会が他のセクター、例えばマスメディアと協働した場合にはブラック企業や非正規就労などの問題提起を行うことが可能となり、行政と協働した場合には公害対策基本法などの法や政策への反映を可能にすることを強調しました。

国立環境研究所資源循環・廃棄物管理センター循環型社会システム研究室室長の田崎智宏氏は、SDGsの実施にあたるネクサス・アプローチについて、分野や空間範囲を超えてマネジメントやガバナンスを統合するとともに、それらのトレードオフを軽減し、相乗効果を生み出すアプローチであるという1つの定義を紹介しました。このアプローチは、開発の文脈におけるヒューマンニーズの充足と環境問題の統合的解決(例:拡大する水や食糧などへのアクセスの確保)、また国際貿易の文脈における内包された環境負荷のコントロール(例:バーチャル・ウォーター)という観点から必要であると説明しました。また、SDGsの目標12の持続可能な消費と生産について、日本では海外における環境汚染やサプライチェーンについての問題認識がないため、行政やNGOなどの対応が求められることを指摘しました。

その後のパネルディスカッションでは、「インクルーシブなプロセス」という場合に、NGOに参加していない一般の市民は入るのかという質問に対して、当然一般の市民は含まれるべきとしたうえで、インクルーシブなプロセスを考える際に最も耳を傾けなければいけない市民というのは、世論調査で聞こえる声だけではなく、こちらから歩み寄らなければいけない人たちの意見であること、SDGsの目標16と関連して、市民に対してアカウンタブルな行政機構が必要であることが議論されました。

中小企業のCSR活動について、限られた予算でどのようにSDGsと関連づけていけるのかという質問に対して、中小企業の財政が限られているとしても、CSRとしてではなく本業においてSDGsを実施する可能性があるのではないかというコメントや、企業のCSR部門だけがCSR活動を行うのではなく、企業の社会責任として社員一人ひとりが考えていかなければならないこと、また一人ひとりの課題認識は企業の大小という規模には関係ないというコメントがあげられました。またS-11などのアカデミアから、企業や市民にバトンを渡し、企業用語や生活者の用語に置き換え、事業に翻訳して実施していくこともパートナーシップの一環ではないか、という点も言及されました。

その他、以下の点についても議論がありました。
 → 2016年5月のG7会合までの5か月間、そしてSDGs実施期間である15年間をどのように歩んでいくのか
 → いかに若者という未来の担い手をプロセスに組み込んでいくのか
 → SDGsの実施にあたり日本では司令塔が必要であるとの指摘があったが(蟹江先生基調報告)、オーストラリアやその他の先進国ではどのような状況か

最後に、Beyond MDGs Japan運営委員会事務局長/国立国際医療研究センターの仲佐保氏による挨拶をもってシンポジウムを閉会致しました。

(当日の様子につきましては、近日中に動画を掲載する予定です。)


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